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星落秋風五丈原
レビュアー:
ほかのどんな場所にいるよりもずっと人恋しくなるパリに酔いしれますか?それとも無数の切子面をきらめかせて旋回する宝玉のようにパリを手中にするあの人に?
 めったに人の警護などやらないパリの予審判事アンリ・バンコランが、剣の名手と名高いサリニー公爵の依頼をうけ、彼と新妻をつけねらう人物から護るために、ジェフ・マールを連れて深夜のナイトクラブを訪れる。だが、バンコランと刑事が出入口を見張るカード室で、公爵は首を切断されていた。
出口は他になかったはずなのに、誰が、いつ、どのような方法で?

 男の斬られた生首が転がっているというのに、そのすぐ側では着飾った人々が賭けに興じている。美しい女性が麻薬に溺れて身も心も持ち崩していく。アメリカ人ジェフ・マールを語り手に設定しているからかもしれないが、感覚が麻痺したような街としてパリが魅力的に描かれている。そしてその魅力的なパリの中でもひときわ魅力的な男が

いついかなる時もワイングラスを前に沈思黙考にふけるが如きたたずまいを崩さず、ひとり役所にいても地図上のパリ全市を掌におさめていた。地図を指でなぞって街灯や灰色の広場をいくつも突っきり、通りから通りへと分け入り、ある家でぴたりと止まる。そうして手元の電話でちょいと声をかければたちまち落とし罠さながら、警察の包囲網が音を立てて閉じるという寸法だった。

と、こうである。犯人を追って全力疾走など絶対しなさそうなおしゃれな彼は、アメリカの捜査を

あの国ではどうやら捜査の主たる武器は”密告”と”拷問”で、対する犯罪者の武器は精神鑑定医と警察そのものだ。で、どちらの勢力も大いに秘密投書の力を借りているね…。警察側の武器はとみれば、なんならいつでも犯罪者に肩代わりさせてけりをつければいいさと高をくくっている。また、いざとなれば手ごろな鉛管をふるうか、時間をかけてじっくり責めれば誰かしら何かを吐くだろうとのんきに構えている

と、散々にこきおろす。

そして確かに、全力疾走も脅迫もせず、静かに語りながら犯人を追いつめていく。もちろんそこには情状酌量もなしに。くー、かっこいいですねぇ。

 謎解きよりも、密室殺人と連続殺人、そして謎の殺人鬼の横行…という恐怖、訳文で伝えられる退廃的なパリや秘密を抱える男女達の心とは裏腹の外側の美しさという、正反対のものが同居する贅沢な雰囲気に酔いしれた。

バンコランシリーズ
髑髏城【新訳版】
蝋人形館の殺人
絞首台の謎【新訳版】
四つの凶器
フェル博士シリーズ
魔女の隠れ家
テニスコートの殺人【新訳版】
仮面劇場の殺人
死が二人をわかつまで
悪魔のひじの家
緑のカプセルの謎【新訳版】
帽子収集狂事件【新訳版】
盲目の理髪師【新訳版】
死者はよみがえる
幽霊屋敷【新訳版】
ノンシリーズ
火刑法廷【新訳版】
火よ燃えろ!
カーター・ディクスン名義 ヘンリー・メリヴェール郷シリーズ
黒死荘の殺人
貴婦人として死す
殺人者と恐喝者
かくして殺人へ
九人と死で十人だ
白い僧院の殺人【新訳版】
時計の中の骸骨
爬虫類館の殺人
墓場貸します
赤い鎧戸のかげで
騎士の盃
青銅ランプの呪
短編全集
妖魔の森の家
パリから来た紳士
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星落秋風五丈原
星落秋風五丈原 さん本が好き!1級(書評数:2320 件)

2005年より書評業。外国人向け情報誌の編集&翻訳、論文添削をしています。生きていく上で大切なことを教えてくれた本、懐かしい思い出と共にある本、これからも様々な本と出会えればと思います。

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